アンパンマンに込めた想い○

くらしナビ・ライフスタイル:やなせさん「大人も面白く」 アンパンマンに込めた思い 毎日新聞 2013年10月22日 東京朝刊

 13日に94歳で死去した絵本作家のやなせたかしさん。くらしナビ面では昨年6月、やなせさんのインタビュー記事を掲載したが、記者が「どうして子どもたちはアンパンマンが好きなのか」と聞いた時、やなせさんは作品を通じて幼い子どもと向き合う心構えを熱く語り始めた。掲載時に紹介できなかったやなせさんの言葉をお届けする。

 −−−アンパンマンに込めた思い

 アンパンマンって非常に不思議なキャラクターでね。スヌーピーにしてもミッキーマウスにしても、赤ちゃんがいきなり好きになることはない。ところが、アンパンマンは驚くぐらい、まだ1歳にもならない赤ちゃんが好きになる。ええ、非常に不思議なキャラクターなんです。

 要するに、現在の日本の幼児教育が全部間違ってる。どういうことかって言うとね、年齢で分けるんですよ、年齢で。幼児だから非常に簡単(なものを与え)、(年齢が上がるにつれ)だんだん難しくなって、と……。

 そうじゃないんですよ。幼児というのは一番「大人」なんだ。

 ●高齢者に合わせ

 幼児は一人で存在しない。幼児が自分で本を選ぶことはないし、テレビ番組を選ぶこともない。「私はアンパンマンを見る」という赤ちゃんはいません。おもちゃを買う時だって、自分でお金を出して「僕はこれだ」なんて言う赤ちゃんはいないんです。

 つまり、赤ちゃんは一つの「マス」の中にいるの。両親、おじいちゃん、おばあちゃん、きょうだい……。この一つのグループの中にいるんですよ。そのグループが喜ばないと、赤ちゃんは喜ばないの。中高年の人たちも分かって「面白い」というものでなければ、赤ちゃんは喜ばない。

 ぼくが郷里(現高知県香美市)に「アンパンマンミュージアム」を作った時、子どもがやって来るのだから子どもに合わせなくちゃいけないとか、子どもが喜ぶように目線を低くしようとかいうことばかりを考えたの。ところが違うんだよ。おじいちゃん、おばあちゃんが付いてくるんだよ。

 ミュージアムに来るお客さんは、少なくて3人、だいたい5人くらいで来る。それはその通りですよね、赤ちゃんが自分で車を運転することはできないんだから。だから高齢者も来るんですよ。

 館の設計は、高齢者にも優しくなくちゃいけない。そのことが、あのミュージアムを作って、初めて分かった。

 例えば現在のアニメソングは、ややもすると全部現代音楽、ロックのリズムのもの。ところが、これは高齢者に合わない。だから、やや古めに、やや穏やかにする。そして、歌詞は赤ちゃん相手に「金魚がナントカ」みたいな歌じゃなくてですね、高齢者も面白いという歌でなければいけない。そういうことが分かったわけです。

.  ●幼児用に作らない

 出版社などは「やなせさん、これは幼児用なんで、グレードをうんと落としてください」(と言ってくる)。「俺は落とさねえ」って。つまり、幼児用に甘くしない。

 赤ちゃん自身も、アンパンマンに何らかの魅力を感じて喜んでいるけれど、見ている親も喜ぶ。なぜかって言えば、程度を落としてないから。  子どもは小学2年生くらいになると「僕はもう大人になったから、赤ちゃん番組は見ない」と、生意気なことを言い出す。そしてしばらく離れてね、他のアニメをいろいろ見るんだけど、大学生くらいになると、また思い出して帰ってくるんですよ。

 赤ちゃんは「全くの白紙」なんですね。だから、わざと舌足らずにしてしまうのは、完全なる間違いなの。むしろ、赤ちゃんに対してはしっかりとした言葉で言わなくちゃいけない。小学生くらいになったら分かるように言ってやらなくちゃいけないこともあるけれど、赤ちゃんには容赦する必要は何もない。

 スピリット(精神)が一番大事なの。スピリットがしっかりしてるってことがね。スピリットだけは、赤ちゃんに通じるんですよ。

 ●「生きる」がすべて

 (作詞した「アンパンマンのマーチ」「手のひらを太陽に」など)俺の歌はね、ほとんど「生きる」って歌なの。この地球上でわれわれが生きてるってことは、一番不思議なこと。「生きる」ってことはすべての原則なんだよね。だから、核兵器を作るとか、けしからん。ああいうことは絶対にやっちゃいけないんだよ。

 若い時ってのは割と分からなくてね。死がすごく遠いところにあって、ロマンチックなんで、「自殺しよう」とか、死に憧れたりするところもある。だけど、年を取ってくるとね、死ってのはこの辺にいるんだよね(右手の指先で胸の前の空間をさす)。明日死ぬかもしれない。そうなるとやっぱり「いやもうちょっと、もうちょっとあっち行ってて」って感じになってくるんです。【聞き手・榊真理子】

~:~:~

 今朝の毎日新聞の朝刊に今月13日に94歳でなくなった、絵本作家のやなせたかし先生への、インタビュー記事が載っていました。記事を読むと、なるほどと思わせることがいくつも書いてありました。

 『アンパンマン』は児童とくに幼児に絶大な人気を持っています。近所の1歳の乳幼児もアンパンマンが大好きです。しかし、記事にあるとおり、何を幼児に与えるかは、実は親が決めているんですよね。まず親が自分が興味を持たないと手に取りません。幼児用に甘くしたグレードの下げた物では、話しにならないんです。そして、子供は親の笑顔を見るのが一番好きです。大人が子や孫と一緒に楽しめる物、つまり『本物』でないと通用しないんですね。

 やなせたかし先生は、その本物を『生きる』ことを表現することで、すべての世代に伝えようとしました。誰もが知っているアンパンマンの主題歌、『アンパンマンのマーチ』の中のフレーズ「何のために生まれて、何をして生きるのか、答えられないなんて、そんなのは嫌だ」とか「何が君の幸せ?何をして喜ぶ?分からないまま終わる、そんなのは嫌だ」なんて、これはもう哲学の話しですよね。人生とは何ぞやというものです。これが根底にある絵本、マンガ、アニメだから、大人も一緒に楽しめるし、自分の子供にも勧める。

 また、誰かがWebで、アンパンマンは、バイキンマンに、「悪いヤツめ!」とは言わず、「イタズラは許さないぞ!」と言う、と書いてたそうです。罪を憎んで、人を憎まずってやつですね。行為ついては阻止・反対するけれども、バイキンマンの人格そのものは否定しないんです。これは、童謡の『ぼくらはみんな生きている』につながります。バイキンマンにも『生』があり、それを否定してはいけないということなのでしょう。

 また、これもどこかで書いてあったことですが、アンパンマンと他のヒーローと決定的に違うのは、アンパンマンは、自分の頭をちぎって、あんパンをお腹をすかせている子にあげるんです。そう、「飢えを救う」この発想が他とまったく違います。敵を倒したらすべて終わりじゃないんです。そこに残された人は、食べなければ、飢えて、結局死んでしまうんです。これも『人が生きる』という根本に、根ざすものです。

 「死ね」とか「殺す」という言葉があまりにも溢れ返っているこの時代と、実はアンパンマンは戦ってきたんじゃないかと思います。その意志は、やなせたかし先生が亡くなっても、みんなで継いでいかなければならないのだと思います。

 ちなみに私の姪っ子は、アンパンマンの大ファンで、なんでそんなに好きなのか、今までよく分からなかったのですが、今回その魅力の一端が分かったような気がします。実は姪っ子のほうが、よっぽど深く人生というものをを考えていたのかもしれませんね。まあ、単純に「面白い」「気持ちが和む」「ワクワクする」からでいいとは思いますが。

 

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